大会長挨拶

2020年10月12日

第2回日本ダウン症学会学術集会開催によせて

第2回日本ダウン症学会学術集会 大会長

岡本 伸彦

大阪母子医療センター遺伝診療科・研究所


 日本ダウン症学会はダウン症に関する医療・福祉・教育等での諸課題について、幅広く議論・情報交換ができる場としての学会です。まだ第2回と歴史は浅いですが、ダウン症については様々な分野の人々による長年の膨大な研究の蓄積があります。そうした長い歴史の上に発足した会です。

 私は大阪母子医療センターで臨床遺伝学と遺伝性疾患の診療と研究に従事してきました。小児病院にはさまざまな染色体や遺伝子に変化を持つ患者様が受診されるので、遺伝診療科は重要な枠割を持ちます。個別の疾患としてはダウン症が最も多く、遺伝診療科の初診患者の1割弱がダウン症です。大阪母子医療センターではすでに1200名以上のダウン症をお持ちの方が受診されてきました。長期的なフォローを行っていますが、最高齢で38歳の方がおります。みなさんさまざまな個性をお持ちです。そして多くのことを教えていただきました。ここ10年ほどは乳児期のダウン症専門外来として「すくすく外来」を立ち上げ、集団指導や患者ご家族の接点を作る機会を設けており、診療内容の充実を検討しています。

 今年の学会のテーマは「ダウン症研究と移行医療」です。最近、医学の分野ではダウン症をめぐるさまざまな研究の進歩があります。iPS細胞やゲノム編集など最新の技術もダウン症研究に応用されています。一方、福祉や教育の分野でも活発な研究が行われてきました。学会では最新の研究成果の発表と活発な質疑応答が期待されます。

 大阪母子医療センターには38歳の方をはじめ、多数の成人患者が受診されますが、小児病院としての限界があります。小児期発症の慢性疾患を持つ患者にとって成人期以降の適切な医療の継続は喫緊の課題です。染色体異常症や各種の先天異常症候群では長期的な医学的問題の情報が不足しており、専門医師も非常に少ないのが現状です。成人ダウン症専門クリニックのような医療体制が必要と考えられます。

 ダウン症学会では様々な分野の関係者が共通の問題意識のもとに集まる貴重な機会です。ダウン症以外の疾患をお持ちの方にとっても関係のあることと考えます。今後もダウン症に関わる方々がより多く参加され、会が発展していくことを期待します。